こっくん道場

南の島から東大に来た僕が日々思うアレコレ

起業促進は善か悪か

昨今、日本国内において起業促進をしようという動きが民間だけでなく政府も成長戦略の重要なテーマとして起業というのを掲げており起業家への手厚い支援を行うようになるなど起業を積極的に起こそうという傾向にあります。

東京大学でも、東大生が在学中に起業する場合に手厚い支援金や無料でのアドバイス(法務面やシード投資での注意など多岐に渡る)が受けられたり、『アントレプレナー道場』という様々な業界の起業家を招いて話を聞いたり起業の実用的な内容を学んだりする場もあったりと起業しやすい環境が十分に整備されています。

個人的には、日本が面白い国家であり続けるには優秀な人材が積極的に起業していくこの流れは好ましいことだと思っていますが、先日受けた経営系の講義でその考えに疑念を持たざるをえないような話があったので少し共有したいと思います。

起業促進は悪?

 経営関連の講義で紹介された内容を端的にいうと既存のICT技術を活用した起業が数多く出てくる状況は必ずしもよくないのでは、という考え方です。

着想の出発点は、

ジェネラル・パーパス・テクノロジーのイノベーション : 半導体レーザーの技術進化の日米比較

という清水洋さんが書かれた本にあると言います。かつて、日本と米国は半導体レーザーという分野で争っている時代がありました。いうまでもなく米国の方が技術的に発展していた時代で、半導体という分野でも米国が優位に立っていました。当然、日本は追いつき追い越せと必死に研究を行っていました。その間米国はというと、その先進的な半導体レーザー技術を活用したスピンアウトが活発に起こり頻繁に起業がなされていました。これは一見好ましい流れに思えますが、時間が経つといつの間にか半導体レーザーの技術的な部分で日本が米国の優位に立っていたのです。

実は、米国はそのスピンアウトの連続に伴い次第に半導体レーザーの技術の木の幹が細くなっていっていました。一方で日本は、半導体レーザーの研究をひたすらに行い技術的な発展を続けていたためどんどん技術の木の幹が太くなっていったのです。だからこそ、東芝やソニーといった企業が世界で優位に立ったと言います。

私自身はまだこの紹介された本を読んでいないし(調べてみたら本郷キャンパスには蔵書があるみたいなので今度読んでみます)、聞いた内容を咀嚼しているので内容が若干不正確な可能性はありますが大体の趣旨はこんなところです。

そして、現在のICT関連の発展にこの問題が当てはめられるのではないかというのが先生の意見でした。しかも、今回は米国と日本の立場が逆転しているという。つまり、日本は起業促進によってICT関連の既存技術を活用したスピンアウトが盛んに行われ技術的な発展が鈍化し技術の木の幹が細くなる一方で、米国はAmazonやGoogleを始めとして研究開発に重きが置かれどんどん技術的に発展しているということです。

AIに着目しても

また、大学の外での講義で、AI研究の第一人者である甘利俊一東京大学名誉教授もたまたま似たようなことをおっしゃっていたことにも注意が必要かもしれません。

それは、AIを活用した起業が盛んにされていたりAIの研究が急速に拡大したりしているのはもちろん好ましいことではあるが、闇雲にただお金や人的リソースを割いているようでは望ましい結果になることはないだろうといった趣旨の話でした。米国のGoogleやAmazonといった米国の巨大企業の莫大な研究費には到底及ばず、中国の巨大企業にも到底及ばない中で、正攻法で闇雲にやったところで太刀打ちできるはずもないのは確かにその通りだと思います。ただ、彼は別にそれに悲観しているのではなくて日本は日本の戦い方があるはずで文化を始めとした様々な要素から日本のあるべき戦い方を模索していくこと、そしてその見つけた道で努力していくことが求められているとおっしゃっていました。

講義のテーマ上、AIという分野に限定した話でしたが別にこれはAIに限った話ではないかと思います。目先の取っ付きやすい研究とそれを活用したビジネスは長い目で見たときに好ましくないと言えるのかもしれません。 

起業促進に関するまとめ

これはあくまで議論の出発点ですが、一つの考え方として頭の片隅に置いておいてもらえるといいかと思います。

今でも、私個人としては起業促進は好ましいことだとは考えています。ただ、単純に手放しで起業促進という方法を推奨するのは短絡的なことだなという考えを持つようにはなりました。

望ましい日本の生き方というのをしっかりと日本を見つめた上で考えていくことが必要なのかもしれません。

おまけ:東京大学の起業関連の取り組み

東京大学アントレプレナー道場 | 東京大学 産学協創推進本部

www.hongotechgarage.com

UTokyo 1000k - 賞金総額 100 万円、東大生限定の製品アイデアコンテスト | 東京大学 産学協創推進本部

などなど…

それではおやすみなさい!